古い名もなきアンプ

☆パイオニア/A-570

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1980年発売。丁度40年前のプリメインアンプ。価格は59,800円で、当時としても普及価格帯のアンプである。このアンプはかなり特異な製品で、他に似たものがあまりない。

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それまで70年代のパイオニアアンプは、極めてオーソドックスなアンプデザインで、特に特徴のあるものではなかった。しかし、このA-570はそれまでのデザインを一新し、メカっぽさを排し、インテリアに溶け込むような落ち着いた佇まいを持たせたのだ。

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79年のオイルショックを受けて各メーカーはコストダウンを迫られ、ハイテク化を通してなんとか切り抜けようと藻掻いていたのだった。そんな中、598という売れ筋価格に投入された。もっとも、ただコストダウンしただけなら安普請のアンプということになってしまうので、別の価値を投入したのであった。デザインもさることながら、トランジスタに”RET”(Ring Emitter Transistor)という高域特性のすぐれた集団トランジスタを使用し、ワイドレンジ化に対応したのだ。これはこのクラスのアンプには過ぎた素子で、その大人しいデザインの裏で実はかなりのポテンシャルを有した製品になっていた。

ところが、当時の評論家には一部を除いてあまり高い評価は得られなかった。というのは、評論家というのは往々にしてHi-Fi指向で、よく言えば透明でフラットな音、悪く言えば薄くてサラサラした音を高評価し、このアンプのような濃厚な、エロスを感じさせる音は敬遠する傾向があった。長岡氏だけは素子による質感の良さを評価していたように記憶しているが、他の評者はそれなりの評価はしていたものの、あまり高い点数は付けなかった。

それと、評者によってかなり違う評価で、長岡氏は「繊細でシャープに切れ込んで透明感がある」というのに対し、瀬川冬樹氏は「ソフト&メロウ」と正反対であった。また、傳信幸氏は「ガッツ・サウンド」と評していた、やはり、使用機材や使用ソフトの違いによるところが大きいと言えるが、それぞれの音質感覚やオーディオ観の違いによるのだろう。それでも、価格比で割と高い評価であることは共通している。

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筆者は25年ほど前に中古でこのアンプを購入し使ってみた。それまで使っていたサンスイやケンウッド、テクニクスとはあまりに違う音質なのであった。また、70年代のパイオニア(SA-8800系)とも違い,更に80年代中期のパイオニア(A-100・120・150系)とも全然違うので驚いたのを憶えている。つまりこの製品は突然変異的な製品で、ワン&オンリーということになる。弟分の"A-470"という似た製品があるのみで、後継機は"A-580"という全く別物のアンプである。

しばらく使ってみて故障したので処分したのだが、ある種、忘れられないアンプの一つとなっていた。ところが最近、ヤフオクで見付けて落札(他の入札者無し)し、ほぼ20年ぶりに再会したのであった。

そこで、このアンプの印象を記してみることにする。

●ライン入力(CD&カセットデッキで視聴)

電源オンして聴き出した瞬間は、やはりやや古い系統の音だ。とても暖か味があって少し華麗な感じである。ウォーム&ブリリアントと言うべきか。ともかく、今では珍しい音質傾向であり、オーディオというよりステレオと言ったほうがよい感じで、ソースを上手く加工して聴き手を気持ちよくさせる演出を感じる。質感は大変良く一級のものだ。しかし、色々と聴いていくとともにそういった個性・クセも取れてきて、かなりスッキリとしてくる。中高音の若干の輝かしい艶と低域の落ち着いたやや重い傾向は残るものの、オーディオ製品としての総合力が高く、音楽の説得力が高い。今日のクール・ハイレスポンス・クリアリティ系の音質とは異なるものの、人間味のある音質に惹かれる。

もっとも、上記の傾向ばかりではない部分もある。ボーカル帯域のある部分にはしっとり感というより、むしろドライでかすれた感じが若干あり、これがロックなどを聴くときにある種の生々しい迫力となっている。これもこの製品の不思議な魅力の一つ。

●フォノ入力(レコード/MMカートリッジ)

598のアンプなのでイコライザーはそれほど高価なものは入っていないはずだが、実際聴いてみると結構いい。低域は厚く、躍動的というよりは落ち着きがあり、これが安心感につながっている。一方、中高域は輝かしさを秘めた表現となっており、バランス的には大人っぽい雰囲気に支配されているが、その中に尖った要素もあり面白い。このため、ロックやポップスも保守的にならずに楽しく聴ける。一方、その大人っぽい要素はクラシックに魅力を発揮できそうだ。特にオペラがよい。爽やかさよりも濃厚なロマンを感じさせる表現はなかなか得がたいものだ。Hi-Fi指向のアンプだと、音場が物理空間として感じられるのだが、このアンプは音場がイメージ空間として表出されるので、オペラ的世界に没入できる。

音質的には”和風”ではない。色が濃く、ややしつこいところが”洋風”と言えそうだ。絵画で言うと印象派というよりはロマン派に近いものを感じる。部屋の電気を暗くすると、表示イルミネーションがいい雰囲気を醸し出す。

●総合評価

やはり面白い魅力を持ったアンプであることは間違いない。ほんとにこういう音質の製品が無くなってしまって残念だと思う。物理特性の良さを音質の言い訳にしているようなオーディオはつまらないなとつくづく思う。
MCカートリッジも使えるので、そのうちテストするつもりでいる。